チームメンバーを、優秀なAIに置き換えると
研究の背景
チームの一員を、その人より多くの仕事をこなせるAIに置き換える。そうすれば、チーム全体の成果も増えそうに思えます。少なくとも、置き換えられたメンバーと同じだけの仕事をしてくれるなら、チーム全体の成果は下がらないように思えます。
本研究では、人間のメンバーより多く貢献するAIに置き換えても、チーム全体の成果が下がりうる仕組みを理論的に考察します。
注目するのは、置き換えられる人の仕事だけでなく、その人がいることで生まれていた、周囲の人が努力する理由です。
例えば、リーダーがプロジェクトに努力を注ぐほど、そのもとで働くメンバーも、自分の工夫や努力をより大きな成果につなげられる状況を考えます。成果に応じて報酬が得られるなら、メンバーにとっても、リーダーの努力に応じて自分の努力を増やすことが有利になります。リーダーもその反応を見越して、プロジェクトにいっそう力を注ぎます。
このとき、メンバーは自分の仕事をしているだけではありません。**「自分が頑張れば、相手ももっと頑張る」という見通しを通じて、リーダーの努力も引き出しています。 AIがそのメンバーの仕事量を再現したとき、このもう一つの貢献まで引き継がれるのでしょうか。
何をやったのか
リーダーと、その働きぶりを見てから努力を決めるメンバー(フォロワー)の二人からなるチームを考えます。二人の努力は互いの効果を高め合い、それぞれがチームの成果の一定割合を報酬として受け取ります。一方、努力には時間や負担がかかるため、二人とも報酬と負担を踏まえて働き方を決めます。
この人間同士のチームと、フォロワーをAIに置き換えたチームを比較します。基本モデルでは、AIの貢献量は導入時に決まり、その後のリーダーの努力には応じて変わらないとします。するとリーダーは、そのAIがどれだけ貢献するかを踏まえたうえで、自分の努力を決めます。AIの貢献も、人間の貢献と同じようにリーダーの仕事を役立てます。
まず、AIが元のメンバーと同じだけ貢献する場合に何が起こるかを調べます。次に、企業がAIの費用と人への報酬を比較し、導入するかどうかと、どれだけのAIを導入するかを選ぶ場合を分析します。さらに、メンバーが複数いるチームや、リーダーの能力が異なる場合も検討します。
何がわかったのか
第一に、このモデルでは、AIが元のメンバーと同じだけ貢献しても、リーダーの努力が減り、チームの成果は必ず下がります。
人間メンバーが相手なら、リーダーは自分がもしサボると、メンバーはそれをみてサボってしまうだろう、と考えます。しかし、貢献量が決まっているAIに置き換えると、この効果が失われます。リーダーは自分がサボっても、それを見たAIがそれに反応してサボったりはしない。人間を相手にしていたときのこの「サボらない理由」が一つ減るため、以前ほどは働かなくなるのです。
そのため、以前の成果を維持するには、AIは元のメンバーより多く貢献しなければなりません。二人の能力や報酬条件が同じで、二人の貢献量を入れ替えても成果が変わらない場合には、必要なのは、元のメンバーではなく、置き換え前のリーダーと同じ量の貢献をもたらすAIです。AIがその量を担い、残った人間(リーダー)が元のフォロワーと同じ努力をすることで、やっと元の成果が保たれます。
第二に、一人の置き換えが、残った人全員の努力を減らすことがあります。
複数のフォロワーがいる拡張モデルでは、フォロワーの一人を同じ貢献量のAIに置き換えると、先ほどのメカニズムによりリーダーの努力が減ります。すると、リーダーの仕事と互いに効果を高め合っていた他のメンバーも、努力から得られる見返りが小さくなり、努力を減らします。つまり、たった一人のフォロワーメンバーを、全くそのメンバーと同量の貢献をするAIに置き換えただけで、他の人間全員の努力が減ることがあります。また、リーダーの能力差を考慮したモデルでは、能力の高いリーダーのチームほど、フォロワーメンバー1人の置き換えによる成果の減少が、量でも割合でも大きくなります。
第三に、チームの成果が下がっても、企業にとってはAIの導入が利益になる場合があります。
AIが元のメンバーより多く貢献しても、リーダーの努力の減少を補いきれず、チームの成果が下がることがあります。それでも、元のメンバーへの報酬が不要になる効果が、AIの費用と売上の減少を上回れば、企業の利益は増えます。
この違いは、AIが安くなっていく過程にも表れます。条件によっては、企業が導入を決める段階では、AIの貢献量がまだ成果を維持する水準に届かず、導入時に成果が落ち込みます。さらにAIが安くなれば、企業は導入量を増やし、それに応じてリーダーの努力も増えるため、成果は回復します。
何の役に立つのか
AI導入の評価では、置き換える人とAIの仕事量を比べるだけでなく、残る人の働き方がどう変わるかを見る必要があります。一人分の仕事を十分に代替できても、その人との相互作用を通じて生まれていた努力まで保てるとは限りません。とりわけ、リーダーが先に動き、それを見て他の人が動く仕事では、この点が重要になります。
では、「リーダーが頑張った分だけ、AIも多く働き、リーダーがサボれば、AIもサボる」というルールをAIに設定すればよいだけに思えます。そのAIルールが確実に守られるなら、人間の反応を再現し、リーダーの努力を引き出すこともできます。ただし、設定を後から変えられる場合には、ルールを守り続ける理由が必要です。
例えば、導入済みのAIを追加費用なしで動かせるなら、リーダー自身がAIを操作できる場合には、自分の努力にかかわらず十分に働かせたくなるので、そのような「反応するAI」の設定を無効にして、常にフル出力するように設定を変えてしまうでしょう。企業がルールを設定しても、リーダーが努力を終えた後には、AIを最大限使う方が得になります。リーダーがこうした変更を予想すれば、当初の約束は努力を促す力を失います。
人間のメンバーは、自分の報酬と負担に応じて努力を決めます。その反応をリーダーや企業が自由に指定できないからこそ、リーダーは、相手が努力したくなるように自分も努力する必要があります。自分の判断で働き方を決める人がいること自体に、周囲の努力を引き出す価値があるのです。
本研究は、こうした仕組みが成立する条件を明らかにする理論研究です。また、これはチームの成果の減少だけを意味し、AIによる労働者の入れ替えが社会全体にとって損失だとは判断できません。残った人の努力の負担が軽くなる面もあるためです。強調したいところは、人の貢献を評価する際には、その人自身が生み出した成果に加えて、その人がいることで引き出されていた、他の人の努力にも目を向ける必要があるということです。
本研究は、JSPS科研費 24K04912 の助成を受けています。
紹介した論文
- 論文名: The Hidden Value of Human Followers
- 著者: Keisuke Hattori
- 年: 2026
- 公開状況: Working Paper(EconStor公開)
- 原論文: https://hdl.handle.net/10419/344041