仲間を思いやるチームほど、低いパフォーマンスになる?
拙稿 Hattori, K. (2026) “Working Harder, Playing Safer: Mutual Concern and Risky Experimentation in Teams” の簡単な解説。
研究の背景
企業や組織では、メンバーがチームの目標を共有し、お互いの成果を気にかけるようにすることが重視されています。仲間のことを気にする人ほど、チームのために一生懸命働いてくれそうです。実際、チームの結束や社会的なつながりが努力やチーム・インセンティブの効果を高めることは、これまで多くの研究でも指摘されています。
しかし、仕事には「どれだけ頑張るか」だけでなく、何に頑張るかという問題があります。
いつもの手順で確実に成果を積み上げる仕事もあれば、うまくいけば大きな成果につながる一方、失敗するかもしれない新しい方法を試す仕事もあります。
そこで本研究では、仲間の成果を気にかけることは、メンバーをよく働かせる一方で、リスクのある挑戦を減らしてしまうのではないか、という問題を理論的に考えています。
何をやったのか
二人のメンバーからなるチームを考えます。それぞれのメンバーは、自分の努力を二つの仕事に振り分けます。
一つは、確実に成果を生み出すルーティン業務です。もう一つは、平均的にはルーティン業務より高い成果を期待できるものの、結果にばらつきがある(つまり悪い結果になることもある)実験的な取り組みです。たとえば、新しい方法を試す、新しいアイデアに時間を使う、といった活動をイメージできます。どちらも時間と労力を使うため、一方に多くの努力を向ければ、もう一方に使える努力は少なくなります。
各メンバーは自分自身の成果だけでなく、仲間の成果もある程度気にかけるとします。この「仲間の成果をどれくらい自分の判断に取り込むか」を、本研究では mutual concern(相互的な関心) と呼んでいます。これは、仲間への配慮、チームへの一体感、組織内での社会化などをまとめて表すものです。
ここで重要なのは、実験的な取り組みが失敗すると、その影響がチームの成果を通じて仲間にも及ぶことです。仲間のことを強く気にかけるほど、「自分の挑戦が失敗したときに仲間にも損失を与える」というリスクまで強く意識するようになります。
何がわかったのか
第一に、仲間への関心が強くなるほど、メンバーは全体としてはより多く努力しますが、実験的な取り組みを減らします。
仲間の成果も気にするようになると、自分の努力によってチームの成果を高める価値も大きく感じるため、総努力は増えます。しかし、実験的な取り組みには失敗のリスクがあります。仲間を気にかけるほど、そのリスクが仲間に与える影響まで自分の問題として受け止めるため、実験的取り組みの魅力は相対的に小さくなります。その結果、努力は実験的取り組みから安全なルーティン業務へと移ります。
つまり、仲間を気にする人は「怠ける」のではありません。むしろ以前よりよく働いているのに、以前より安全な仕事ばかりするようになるのです。
第二に、このため、仲間への関心が強まって総努力が増えても、チームの期待成果が下がることがあります。このモデルでは、実験的取り組みのほうが「平均的な」生産性が高いためです。増えたルーティン努力によるプラスより、高い期待収益をもつ実験が減るマイナスのほうが大きければ、全員がより一生懸命働いているにもかかわらず、チームの期待成果は低下します。条件によっては、仲間への関心と期待成果の関係はU字型になります。
また、仲間への関心は強ければ強いほど望ましいわけでもありません。仲間への関心が弱すぎると総努力が不足しますが、強すぎると実験的取り組みが不足します。そのため、メンバー自身の物質的な利得を基準に厚生を評価すると、望ましい仲間への関心の程度は中間的な水準になります。
第三に、同じ仕組みはチームの人数にも現れます。チームの人数が増えるほど、一人の行動が関係する仲間の数も増えます。その結果、仲間への関心は、メンバー一人あたりの総努力とルーティン努力を増やす一方、やはり実験的取り組みが減ります。つまり、大きなチームほど勤勉になる一方で、保守的にもなり得ます。条件によっては、一人あたりの期待成果もチーム規模に対してU字型になります。
第四に、チーム成果への責任の重さがメンバーによって違う場合にも、同じ力が働きます。チームの成果が自分の評価やキャリアなどに強く影響するメンバーほど、全体としてはよく働きますが、実験的取り組みは少なくなります。そして、実験的取り組みを一人だけに任せなければならないような場合には、チーム成果への責任が比較的小さいメンバーに実験の裁量を与えたほうが、期待成果は高くなります。
何の役に立つのか
本研究が示しているのは、チームを見るときには、「どれだけ働いているか」だけでなく、「何に努力を使っているか」を見る必要があるということです。非常によく働いているチームでも、その努力のほとんどが確実なルーティン業務に向かい、新しい方法を試す活動が減っている可能性があります。実験的な挑戦が少ないからといって、必ずしもメンバーの意欲が低いとは限りません。むしろ仲間の成果を強く気にかけるからこそ、失敗によって仲間に損失を与えることを避けている可能性があります。
したがって、チームの結束や一体感を強めれば常によい、ということにもなりません。ルーティン業務を確実に遂行することが重要な仕事では仲間への関心が有益ですが、実験的な取り組みの期待収益が大きい仕事では、強すぎるチーム志向が過度な慎重さを生む可能性があります。
また、チーム成果への責任と、リスクのある実験を行う裁量を同じ人に集中させる必要はありません。チーム成果に強くさらされている人は日常業務を着実に進める一方で、実験的取り組みには慎重になります。実験的取り組みの裁量を、成果への直接的な責任が比較的小さいメンバーに持たせることには意味があります。
さらに、実験的取り組みを促すためにチームの結束そのものを弱める必要もありません。本研究では、メンバーが異なる方向の実験的取り組みを行い、それらの結果があまり似通わないようにすることで、実験的取り組みへの意欲と期待成果が高まることも示されています。仲間を思いやるチームを作ることと、新しいことに挑戦するチームを作ることは、必ずしも二者択一ではありません。
本研究はJSPS科研費 24K04912 の助成を受けています。