メンバー間の『交渉力の差』は、チーム成果を高めるのか

2026/8/12 1分で読める

拙稿 Hattori, K. (2026) “Enforceability Reverses the Effect of Bargaining Power on Team Performance” の簡単な解説。

研究の背景

職場では、「誰がどれだけの仕事を負担するのか」をメンバー同士の直接的な話し合い(交渉)で決めることがあります。チームでは、発言力や存在感の大きさ、声の大きさ、交渉の上手さなどによって、メンバー間の交渉力に差があるのが普通です。交渉力の強い人は自分の負担を小さくし、そのぶん弱い人に仕事を多く割り振ることができたりします。

では、こうした交渉力の格差はチームの成果を高めるのでしょうか、それとも下げるのでしょうか

本研究が示すのは、その答えは交渉力そのものでは決まらず、交渉によって合意した仕事分担をどのくらい強く守らせることができるか(Enforceability: 執行可能性)によって逆転する、ということです。管理者や制度が話し合いで決まった分担を強制できるなら、交渉力の格差はチームの成果を高めます。ところが、決まった分担が各メンバーの自発的な協力によってしか維持できないなら、交渉力格差が大きくなると、逆にチームの成果が落ちる、という理論的可能性を明らかにしました。

何をやったのか

二人のメンバーからなるチームを考えます。二人は能力も努力コストも同じで、違うのは仕事の分担を決める(Nash交渉における)交渉力だけです。チームの成果は二人の努力の合計で決まり、成果は二人に等しく分配されます。

何も合意しなければ、それぞれは自分にとって最適な水準だけ努力します。しかし二人が協力すれば、互いの努力から便益を得られるため、それより高い努力水準を実現できます。

そこで二人は、長期的に「誰がどれだけ努力するか」を交渉によって決定します。ここでは金銭による埋め合わせはできないとします。したがって、交渉力の強い人が交渉からより有利な取り分を得ようとすれば、自分の仕事を減らし、相手の仕事を増やすという形でしか実現できません。

ここで二つの職場環境を比較します。

一つは、合意した仕事分担を外部から強制できる環境です。たとえば、会議で決まった役割分担を、上司による命令や評価・処遇を通じて、実質的に守らせることができる場合です。

もう一つは、合意した分担を守るかどうかが最終的には各メンバーに委ねられており、「今後も協力関係を続けたいから守る」ことでしか維持できない自己拘束的な環境です。合意を破ればその後の協力が失われるという将来の不利益が、いわば歯止めになります。プロジェクト型の協働や、同僚同士の助け合いのように、細かな努力を契約や命令で完全には強制できない状況がこれに近いでしょう。

何がわかったのか

第一に、合意した仕事分担を強制できる場合、交渉力が不平等なほどチームの成果は高くなります

たとえばメンバー1の交渉力が強くなると、メンバー1は自分の負担を減らし、メンバー2により多くの努力を負担させます。興味深いのは、交渉力の差異は、メンバー1が減らす仕事量よりも、メンバー2が増やす仕事量のほうを大きくするように働くということです。そのため、二人の努力の合計、つまりチーム全体の成果は上がります。もちろんメンバー2にとっては望ましいことではありませんが、仕事分担が外部から強制されるため、合意された負担を守ることになります。

したがって、この環境だけを見ると、「役割や発言力を完全に平等にするより、ある程度の力の差があったほうがチームはよく働く」という結論になります。

しかし第二に、仕事分担が自発的な協力によってしか維持できない場合、この結論は逆転します

交渉力の強い人が仕事を弱い人へ移し続けると、やがて弱い側にとって「この分担を守り続けるより、今日は手を抜いたほうがよい」という状態になります。つまり、合意された仕事量そのものが持続不可能になります。

このような弱いメンバーの合意からの逸脱可能性は、最初の交渉時に両者が織り込まなければなりません。弱い側が合意を破らないようにするには、その人の負担を軽くする必要があります。しかし、単純に弱い側の負担だけを減らすと、今度は強い側の負担がそれに見合わなくなります。交渉のバランスを取り直すため、強い側の負担も同時に下がります。結果として、一人の協力誘因の問題が、チーム全体で合意される努力水準を縮小させます。

そのため自己拘束的なチームでは、交渉力の格差が小さいうちは問題がありませんが、ある水準を超えると成果が下がり始めます。条件によっては、交渉力が平等なチームよりも、格差の大きなチームのほうが成果が低くなります

第三に、この結果は、二人の努力が単純に足し合わされる場合だけの特殊な話ではありません。片方が努力するともう片方の努力もより生産的になるような補完性を入れても、基本的な逆転は残ります。むしろ補完性があると、交渉力によって生まれる仕事量の差が成果に強く反映される一方、弱い側の協力制約もより早く問題になり得ます。

何の役に立つのか

この結果から重要なのは、チーム内の交渉力の格差がパフォーマンスを高めるのかどうかは、合意がどれだけ強制力を持つかで全く異なった結果を生むということです。交渉力の格差だけを見て、「不平等なチームのほうが効率的だ」「平等なチームのほうが効率的だ」と一般的に結論づけることはできません。

また、チームの成果とメンバー間の分配は同じ方向には動きません。合意を強制できる場合、交渉力の格差はチームの成果を高める一方で、交渉力の弱いメンバーの利得を低下させ、メンバー間の利得格差を広げます。逆に、合意を強制できず弱い側の協力を維持する必要がある場合には、その人に過大な負担を負わせることができなくなるため、弱い側の利得は改善し、利得格差も縮まりますが、その代わりチーム全体の成果は低くなります。したがって、低い利得がメンバーの不満や離職につながるのであれば、現在のチーム成果を最大にする仕組みと、管理者が長期的に望む仕組みは一致しない可能性があります

本研究はJSPS科研費 24K04912 の助成を受けています。