「多様性」はいつチームを強くするのか

2026/6/18 1分で読める

拙稿 Hattori, K. (2026) “Diverse Hands, Aligned Hearts: Ability and Preference Diversity in Team Production”(Working Paper, ZBW - Leibniz Information Centre for Economics, Kiel, Hamburg)の簡単な解説。

研究の背景

企業や学校、スポーツなど、あらゆるチームにおいて「メンバーの多様性」は重要な要素であると言われます。多様な人が集まるチームが強いのか、はたまた同質な、似た者同士の人が集まるチームが強いのか。

もちろんそれは、チームが行うタスクの種類やどういう意味での多様性なのか(スキルの種類なのか、スキルのレベルなのか、性格なのか、年齢や性別・人種なのか)によっても変わる話であることは言うまでもありません。

この研究が注目したのは2種類の異なる多様性、一つは能力(同じ仕事をどれだけ効率よくこなせるか)、もう一つは仲間への向き合い方(相手の成果をどれだけ自分ごととして気にかけるか)という関係志向性(社会的選好、とも呼びます)です。これらの多様性は、いつ、どのようにチームパフォーマンスを高めるのでしょうか。

答えは簡単ではありません。多様性は、各人が得意を活かして特化できれば成果を押し上げますが、共同作業に必要な足並みを乱せば成果を下げます。しかも、能力の多様性と関係志向の多様性が、チームパフォーマンスに同じ方向に作用する保証はありません。組織研究では「専門性・能力の多様性は成果を助け、価値観や社会的志向の多様性は成果を損ないやすい」という傾向が知られていますが、その理由はこれまで主に対人摩擦に求められてきました。本研究は、そのような摩擦をいっさい持ち込まず、メンバー間の戦略的な努力選択行動のみから同じパターンが生じることを、ゲーム理論にもとづく数理モデル分析で明らかにしました。

何をやったのか

二人チームの単純な「チーム生産」のモデルを考えます。二人が努力を出し合って共同の成果を生みますが、努力には個人的なコストがかかり、能力が高い人ほど同じ仕事をより効率よくこなせます。さらに各メンバーは、チームメイトの効用をどれだけ気にかけるか(関係志向)が異なります。

鍵となるのは、タスクの性質です。緊密な共同作業を要するタスクでは二人の努力は補完的(互いの貢献が噛み合う)になり、分担可能なルーティンでは代替的(一方が他方の代わりになる)になります。チームの平均は一定に保ったまま、能力と関係志向それぞれのばらつきだけが変わることのチームパフォーマンスへの影響を分析しました。手番が同時の「水平的チーム」と、一方が先導しもう一方が従う「垂直的チーム(リーダーシップ)」の両方を分析しています。

何がわかったのか

能力は多様に、心はそろえる

中心的な結果は、二つの多様性が別々の経路で働くことです。能力の多様性は、いずれのタスクでも成果を高めます。能力の高い人に努力を集中させて効率化できるからです。一方、関係志向の多様性はタスク次第で、緊密な共同作業(補完的タスク)では成果を下げ、分担作業(代替的タスク)では上げます。つまり調整を要し、チームワークが必要となるような仕事に向くのは「能力は多様、心はそろっている」チーム diverse hands, aligned hearts というわけです。

理由はこう説明できます。能力のばらつきはチーム全体の努力量(規模)を押し上げます。これに対し関係志向のばらつきは総量をほとんど変えず、二人の貢献のバランスを崩すだけです。バランスの崩れは、噛み合いが大事な補完的タスクでは損になり、互換的な代替的タスクでは得になる。だから符号が逆転するという簡単なロジックです。

「能力が高く」かつ「他人をケアする」人がいるチームが強い

能力差と志向差の大きさを固定して比べても、能力の高い人が関係志向も高いチームは、その逆のチームに常に勝ります。関係志向の高い人ほど多く努力するので、その人が能力も高いときにチームは最も得をするからです。裏を返せば、全員がそっくりの均質チームは決して最適ではなく、属性を組み替えることができるのならば必ず成果を改善できます。

リーダーシップ:誰を前に出すか

一方が先に動く垂直的チームでは、「誰がリードすべきか」が問題になります。能力の多様性は、リーダーの配置に左右されにくく、誰がリーダーであっても成果を押し上げる方向に働きます。しかし関係志向性については、より仲間をケアする傾向のあるメンバーをどの役割に置くかで結果が変わり、その最適配置はタスクで反転します——補完的ならフォロワー側に、代替的ならリーダー側に置くのがよいのです(努力が不足しがちな役割に、最も反応のよい人を充てるのが効くため)。

また、メンバーの社会的選好を観察・測定することには、より適切なチーム編成やリーダー選択を可能にし、チームパフォーマンスを高める価値があることも示しました。この価値は、タスクの相互依存が強く、メンバーのばらつきが大きく、測定が信頼できるほど大きくなります。

何の役に立つのか

チーム編成・設計への示唆

多様性は一律に善でも悪でもありません。大事なのは、タスクの性質にばらつきの形を合わせることです。緊密な調整を要する仕事(R&D、共同研究、すり合わせ型の開発チーム、チームスポーツなど)では、能力は多様化しつつ関係志向、つまり心はそろえる。分担可能なルーティンでは、両方の多様性が役立ちます。

人事・組織への示唆

組織はスキルや経験の情報は日常的に集めますが、社会的志向(SVO)の情報には、それとは別の価値があるというのが本研究の含意です。誰と誰を組ませるか、誰をリーダーにするか、という判断の質を高められるからです。

実証可能性と今後の課題

関係志向は測定することができれば、中心的な予測はそのまま検証できます。補完的タスクでは志向のばらつきが大きいほど成果は下がり、代替的タスクでは上がる、という仮説です。今後、実験的な検証にも挑戦していきたいと思います。

本研究はJSPS科研費 24K04912 の助成を受けています。