社会的交流とチームパフォーマンス

2025/4/5 1分で読める
拙稿 Hattori, K., Yamada, M. (2025) "Closing the Psychological Distance: Effect of Social Interaction on Team Performance" (April 4, 2025). Available at SSRN: https://papers.ssrn.com/abstract=5204747の簡単な解説

研究の背景

多くの組織は、社会的交流を促進するチームビルディング活動やワークスペースのデザインに多額の投資をしています。例えば、Googleのキャンパスは「偶然の出会い」を促すよう設計され、スティーブ・ジョブズが設計したPixar本社は自然な会話を最大化するレイアウトで有名です。

Nikeはチーム間のスポーツ活動を年間を通じて開催し、Airbnbは社員間の体験共有を奨励する文化を構築しています。LEGOグループでは遊びと学びを核とした非公式な交流イベントを定期的に実施し、これらの企業は職場内に非公式なコミュニティを形成することで、信頼感や所属意識、イノベーション、そしてチームパフォーマンスの向上を目指しています。

しかし、これらの大規模な投資にもかかわらず、職場における人と人とのインフォーマルな交流(社会的交流)が、「どのように」チームの成果を向上させるのかについての明確な証拠は不足していました。

この研究では、社会的交流がチームのパフォーマンスを向上させる心理的メカニズムは何かについて、特にタスクがチームメンバーの補完的な努力を必要とする場合、どのようなメカニズムが働くのかについて、ゲーム理論を援用した理論と、そこから得られた予測をラボ実験にて検証しました。

何をやったのか

私たちは、『チームメイト間の社会的交流は、彼らの「お互いを思いやる程度(向社会性)」の温度差を小さくする効果を持ち、それがチームパフォーマンスを高める効果を持つだろう』という仮説を立てました。

人は誰しも、「自分を思いやってくれる人」と交流すると、自身が抱く「その人に対する思いやり」は大きくなりますが、逆に「自分を思いやってくれない人」との交流は、自身が抱く「その人に対する思いやり」を小さくしてしまうでしょう。つまり、社会的交流によって、互いにチームメイトの「自身に対する感情」を読み取ることができるようになり、それが実際の「お互いを思いやる程度」のチーム内の格差を小さくする効果(向社会性ギャップの縮小、と呼びます)を持つと予想されます。

そして、そのような社会的交流による向社会性のギャップの縮小が、チームの協力が不可欠であるようなチームタスクにおけるパフォーマンスを高めるのではないかという仮説を立て、それらについて、数理モデルを使った理論と、大学生を対象とした実験室実験にて検証しようというのが、私たちの研究です。

理論的枠組み

私たちは、チームメンバーの補完的な努力に依存するチーム生産の理論モデルを構築し、チームメンバー間の「向社会性ギャップ」(メンバー同士がどれだけお互いを思いやっているかの差)を減少させるような社会的交流が、チームの個人や全体のパフォーマンスに及ぼす影響についての理論的予測を得ました。

このモデルは以下を予測しました:

  1. 社会的交流は必然的に向社会性の低いチームメンバーの努力を増加させるが、向社会性の高いメンバーの努力を増加させるかどうかは努力の補完性に依存する。
  2. 社会的交流は、初期の向社会性分布に関係なく、チーム全体のパフォーマンスを向上させる。
  3. この社会的交流がチームパフォーマンスを高める効果は、より高い努力の補完性とより高いリスク回避性を持つチームでより強く現れる。
実験

これらの予測を検証するために、74組の2人一組の大学生チームを対象とした実験室実験を実施しました。チームはランダムに2つのグループに割り当てられました:

  • 処置群:2人のチームメンバーで10分間の共同ブレインストーミング演習に取り組む
  • 対照群:同様のブレインストーミング演習をチームメンバーと会話することなく、一人環境で取り組む

すべてのチームにはその後、「SLAPタイピングタスク」を行なってもらいました。これは、一人が「S」と「A」のキーを担当し、もう一人が「L」と「P」のキーを担当して、「SLAP」という配列をできるだけ多く入力する協力型のコンピュータタスクです。このタスクは特に高レベルの補完的努力を必要とするように設計されました。高い成績には報酬が与えられるため、各チームは協力してこのタスクでの高得点を目指します。そして、処置群と対照群でのこのタスクのパフォーマンスを比較するというのが主な検証課題です。

このようなランダム化比較試験により、社会的交流がチーム内の向社会性ギャップ、ならびにチームパフォーマンスに及ぼす影響を定量的に検証しました。

さらに、「なぜ社会的交流がチームの向社会性ギャップを小さくするのか」のメカニズムを解明するために、「感情的知覚力(emotional perceptiveness)」という「チームメイトが自身に対して抱いている思いやりの程度をどれだけ正確に把握できているのか」という尺度が果たす役割についてや、「どのような特性のチームが、社会的交流によってチームパフォーマンスが高くなるのか」についても検証をしました。

何がわかったのか

私たちの結果は理論から得られた仮説を強く支持しました:

  1. 社会的交流は向社会性ギャップを42%減少させる。
    短時間の共同ブレインストーミングを行ったチームは、対照群と比較して向社会性ギャップが有意に小さくなりました。

  2. 社会的交流はチームのパフォーマンスを14.4%向上させる。
    実験群のチームは対照群と比較して、SLAPタスクで有意に高いスコアを達成しました。

  3. 向社会性ギャップの縮小が、社会的交流がパフォーマンスを高める主因である。
    媒介分析により、社会的交流が向社会性ギャップの縮小をもたらし、それがパフォーマンスを高めるという有意な媒介効果が示されました。具体的には、パフォーマンス向上の約38%が向社会性ギャップの減少を通じてもたらされたことが示されました(興味深いことに、社会的交流がチームパフォーマンスを高める効果には、相手に対して感じる親しみや向社会性のレベルを通じた媒介効果は見られませんでした)。

  4. 社会的交流が向社会性ギャップの縮小をもたらすことに、感情的知覚力が重要な役割を果たす。
    おそらく最も興味深いことに、社会的交流はチームメイトがお互いの向社会的態度を正確に予測する能力(「感情的知覚力」)を高め、それが向社会性ギャップの縮小をもたらすという有意な媒介効果が得られました。この知覚の向上が向社会性ギャップの縮小の驚くべきことに98%を説明しました。

  5. 社会的交流がパフォーマンスを高める効果は、同性チーム(特に女性ペア)、またはメンバーのリスク回避傾向が高いチームでより強く働きました。

おそらく同性のチームはコミュニケーションの障壁が低く、社会的交流の効果が強かったこと、または、リスクを恐れる人たちにとって事前コミュニケーションが心理的に安全な環境を作り、それがもたらす対人リスクの減少の効果が大きかったのだろうと推測できます。

何の役に立つのか

これらの発見は組織にとって重要な意味を持つと考えられます。

  1. 短時間の構造化された社会的交流でも大きな効果がある。
    わずか10分の共同ブレインストーミングでその後のチームパフォーマンスが大きく向上する。

  2. 感情的な一致が重要なメカニズム。
    組織は一般的なチーム結束力の構築に焦点を当てることが多いですが、私たちの研究は特にチームメンバー間の向社会的態度の一致、および「相手が自身に対して抱いている感情をどれだけ正確に推測できるか」が、パフォーマンス向上を促進することを示唆しています。チーム開発評価に向社会性と感情的知覚力の測定を含めることも重要かもしれません。

  3. 感情的知覚力は交流を通じて向上させることができる。
    チームメイトの意図や態度を正確に認識する能力は、構造化された交流を通じて開発できるスキルであることがわかりました。感情的知覚力と向社会性の一致を高めるようなチームビルディング活動をデザインすることが求められます。

  4. チーム構成を考慮すべき。
    社会的交流の利点は、性別構成やリスク態度などのチーム特性によって異なる場合があります。社会的交流イニシアチブを計画する際にチーム構成を考慮し、一部のチームが他のチームよりも多くの恩恵を受ける可能性があることを認識する必要があります。

私たちの研究は、社会的交流が感情的知覚力の向上を通じて向社会性ギャップを減少させ、それがチームのパフォーマンスを向上させるという証拠を提供しています。これは、人と人とのインフォーマルなつながりの強化が、チームのパフォーマンス上の利益をもたらすという直感的な信念に科学的根拠を与えると同時に、それらの利益を最大化する方法についての具体的なガイダンスも提供していると考えれらます。

この論文は、以前 "Closing the Psychological Distance: The Effect of Social Interaction on Team Performance" というタイトルで、理論分析のみを行なっていた研究に、新たに実験を加えたものです。こちらのポストにその解説記事があります。また、SLAPタイピングタスクについてはこちらのポストもご覧ください。