ワーキングペーパー Closing the Psychological Distance: The Effect of Social Interactions on Team Performance を公開しました
論文 “Closing the Psychological Distance: The Effect of Social Interactions on Team Performance” を ワーキングペーパーとして公開 しました。
研究の背景
企業組織やスポーツチームなど、人間が「チーム」を組んで共通のタスクに取り組む際に、チームのメンバーたちはどの程度「(仕事以外の)社会的交流」をするべきでしょうか。人が社会的な交流をすることには、良くも悪くも様々な「ピア効果」があり、
モチベーションの高い仲間と交流することで自らもモチベーションを高めたり、はたまた、不正を働く仲間と交流することで自らも不正に手を染めるような場合もあります。このようなメンバー間の双方向的なピア効果を持つメンバー間の「社会的交流」は、どのようなチームや、どのようなタスクを抱えるチームのパフォーマンスを高め、また低くしてしまうのでしょうか。
何をやったの?
私たちは「チーム生産(team production)」と呼ばれる理論に、内生的な「社会的交流」を組み込み、それがチームパフォーマンスやメンバーの効用に及ぼす定性的な影響を分析しました。具体的には、2種類のタスク(補完的タスク・代替可能タスク)と、2種類のチーム構造(上下のヒエラルキーのない水平的チーム・リーダーとフォロワーから構成される垂直的チーム)に対する、社会的交流の効果を明らかにしました。
チームメンバー間の社会的交流は、各チームメンバーが他のチームメンバーの効用をどの程度考慮するかを表す「向社会性」の程度を類似させる効果として定義されます。つまり、自分より向社会性が高いメンバーと交流することによって自らの向社会性は高まるという正のピア効果があるものの、相手からすれば自分より向社会性が低いメンバーと交流したということになり、向社会性が低くなるという負のピア効果も同時に生じるというものです。
補完的タスクとは、チームメンバーの努力が補完的役割を果たし、「チームで努力水準が低いメンバー」がタスクのボトルネックとなってしまうようなタスクを表し、代替可能タスクとは、「誰でもできるが誰かがやらなければならない」ような性質をもつ日常的タスクを表し、「チームで努力水準が高いメンバー」がいれば他のメンバーは特に力を入れる必要のないタスクを指します。
何がわかったの?
このような理論モデルにおいて、社会的交流がチームパフォーマンスやチームメンバーの効用に及ぼす影響、そしてチームを管轄するマネージャーが設定する最適な社会的交流の水準がどのような特徴を持つのか、また、それらがタスクの種類やチームの構造にどのような影響を受けるのかを明らかにしました。基本モデルの分析結果から、
- ヒエラルキーのない水平的チームにおいては、社会的交流は補完的タスクを行うチームに対してはチームパフォーマンスを高めるが、代替可能タスクを行うチームに対してはチームパフォーマンスを低めてしまう
- リーダーシップを伴う垂直的チームにおいては、社会的交流は、より向社会性が高いリーダーに率いられた補完的タスクを行うチームに対してのみ、そのチームパフォーマンスを高めるが、向社会性の低いリーダーに率いられた補完的タスクを行うチームや、代替可能タスクを行う垂直チームに対しては、パフォーマンスに悪影響を及ぼす
- 補完的タスクを行う水平チームや、より向社会性の高いリーダーに率いられた補完タスクチームでは、努力のシナジー(補完)効果が強い場合、メンバー全員(およびマネージャー)の効用を改善するようなパレート改善をもたらし得る
ことなどが明らかになりました。1.については、チームメンバー間の社会的交流によって、メンバーの向社会性が似ることにより、タスクのボトルネックが解消される効果があり、2. については、垂直チームでは補完タスクの場合、フォロワーの努力不足がボトルネックとなり得るが、より向社会性の高いリーダーとの接触により、フォロワーの努力改善効果が強く働くからです。
また、基本モデルをいくつかの方向に拡張することで、
- マネージャーがチームの構造やメンバーへの役割の割り当てをする権限や能力を持っているならば、マネージャーはより向社会性の高いメンバーをフォロワーに割り当てるインセンティブを持ち、このとき社会的交流のない組織を作ることになる
- チームメンバー自身が、自発的にチームの構造やメンバーの役割分担を決めるようなゲームを考えると、補完的タスクではマネージャーの思惑と等しいチームが形成されるが、代替可能タスクの場合はマネージャーの思惑と異なるチームが編成され得る
- 繰り返しゲームの枠組みを用いて「チーム内協調」の持続可能性を検証すると、社会的交流は、タスクの種類に関係なく、水平チームにおける協調の維持可能性を高め、より向社会性の高いリーダーに率いられたチームにおける協調の維持可能性を高める効果を持つ
ことなども明らかになりました。
どのような組織で、どのようなチームで、どのようなタスクに対して、職場での「社会的交流」が効果を持ち得るのかを明らかにする理論として、本研究は今後の実験的研究につながる重要な役割を果たせるものだと期待しています。