ワーキングペーパー Profit-Sharing vs Price-Fixing Collusion with Heterogeneous Firms を公開しました

2021/11/24 1分で読める

論文 “Profit-Sharing vs Price-Fixing Collusion with Heterogeneous Firms” をワーキングペーパーとして公開しました。

研究の背景

教科書的な 2 企業のベルトラン(価格)競争の理論では、競争の結果、企業はともに生産の限界費用まで価格を下げ合うことが均衡になることが知られています。また、(コンスタントな)限界費用に企業間格差がある場合

限界費用の小さな効率企業が、限界費用の大きな非効率企業の限界費用に合わせるような価格を設定することで、非効率企業を(事実上)追い出すような状況が均衡になることが知られています。このような状況においては、当該 2 企業は、なんらかの「合意」をすることで、互いに利益を高めることが可能です。もちろんこれは、摘発された場合には、多くの場合、違法な共謀行為とされるわけですが、摘発は完全ではありません。

何をやったの?

この研究では、2企業の限界費用と時間選好率(割引因子)がともに異なりうる 2つの企業間での、価格競争における共謀行為の合意可能性と維持可能性を検討しています。具体的には、サイドペイメント(利益分配)の有無で分類される 2つのタイプの共謀について検討しました。

一つは、profit-sharing collusion (利益共有型 共謀)で、もう一つは price-fixing collusion(価格固定型 共謀)です。利益共有型共謀は、2つの企業間でマーケットシェア(需要)や利潤(金銭)の配分をも約束に含むようなタイプの共謀であり、効率企業がその独占価格を設定し、非効率企業はそれより高い任意の(みせかけの)価格を設定することにより、事実上効率企業に独占利潤を獲得させる代わりに、非効率企業が効率企業から何らかのサイドペイメントを受け取る、という「強い形」の共謀です。一方で、価格固定型共謀は、両企業が共通価格を設定するという約束のみを行い、それに伴い需要が折半されるような「弱い形」の共謀です。

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そして利益共有型共謀においては、その合意形成においてナッシュ交渉解と呼ばれる交渉解の概念を用いてそのサイドペイメント額が決定され、価格固定型共謀においても、ナッシュ交渉によって決まる共通価格が決定されるというプロセスを考え、そのワンショットの合意が、(トリガー戦略をともなう)無限繰り返しゲームにおいて、どのような状況において維持可能なのか、そしてどちらのタイプの共謀がより維持可能性が高いのかを分析しました。

さらには、利益共有型共謀におけるサイドペイメントの性質に関して、2種類の拡張を行うことにより、より詳細に利益共有型共謀のインセンティブ構造を明らかにしました。一つの拡張は、利益共有型共謀において、サイドペイメントの受け渡しが行われる「タイミング」に関して「約束された価格設定が果たされたのを確認してからサイドペイメントの受け渡しがある」のか「サイドペイメントの受け渡しの後に、約束された価格設定が行われるのか」の違いです(人質解放のための身代金の受け渡しのタイミング、のようなものと考えると良いでしょう)。もう一つは、サイドペイメントがワンショットの合意形成のためだけでなく、共謀が持続するための障害を取り除くためという長期的な維持可能性を考慮して決定されるような場合です。

何がわかったの?

理論分析の結果から

  1. 効率企業は利益共有型共謀を好み、非効率企業は価格固定型共謀を好む。
  2. 両企業の割引因子が同一であるならば、利益共有型共謀は必ず価格固定型共謀よりも、維持可能性が高くなる。
  3. しかし、効率企業の方が非効率企業よりもより長期利益を重視する(忍耐強い)場合には、価格固定型共謀のみが、持続可能となるような状況が存在する。
  4. 3.の状況は、効率企業が非効率企業よりも (1) 経営者の任期が長くなる傾向があり (2)より低い利子率や資本コストに直面しやすいこと、または長期利益を重視する経営者ほど (3) より多くの費用削減型R&Dなどを行うインセンティブがあること、などから、より一般的に成立しやすい状況であり、これは価格固定型共謀を異質な企業が共謀形態として選びうる理由としての新しい理論的根拠を与えうる。

ことなどを明らかにしました。これらの結果は、なぜ企業間であるタイプの共謀に成功することもあれば失敗することもあるのかについて、重要な理論的根拠を与えるものであると考えられます。

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