ワーキングペーパー A Paradox of Coalition Building in Public Good Provision を公開しました

2021/10/18 1分で読める

CESifo にて、論文 “A Paradox of Coalition Building in Public Good Provision” (University of Regensburg の Wolfgang Buchholz 氏との共同研究) をワーキングペーパーとして公開しました。

研究の背景

地球環境問題におけるパリ協定のような、一部の国々で環境問題への対策を協力的におこなう「部分連携」は、

全ての国が参加するような全体連携(Grand Coalition)が不可能であるような場合における次善の策であると考えられています。この論文は、このような「部分連携」の成立可能性が、内生的な環境技術開発を考慮すると、地球環境や世界各国の厚生にとって良くない可能性を持っていることを示す理論研究です。

何をやったの?

世界の諸国が自発的に温暖化対策に取り組むような状況はBergstrom, Blume, and Varian (1986) タイプの公共財の私的供給の理論で描かれます。その中で、ある複数のエージェント(国々)によって構成されるグループの内生的な提携形成の存在が、グループ外のエージェント(国)による、事前のより良い公共財供給技術の内生的な採択決定に及ぼす影響を考察するものとなっています。

具体的には、部分提携のアウトサイダー国による環境技術選択の後に、部分提携の選択が行われ、その後、国家による協力・非協力(自発的)な環境改善努力がなされるような3ステージのモデルの均衡における公共財総量(環境の質)および世界厚生を導出し、部分提携の可能性がない状況での均衡でのそれらと比較することで、パリ協定のような部分連携が不可能な世界線とそれが可能な世界線との比較ができるというわけです。

何がわかったの?

理論分析の結果から

  1. 将来の部分提携の可能性を見越したアウトサイダーは、より良い公共財供給技術がたとえ無償で利用可能であったとしても採用しない。
  2. 仮に将来の部分提携の可能性がない状況であれば、アウトサイダーは、ある条件の下で、より良い公共財供給技術を採用するインセンティブを持つ。
  3. この技術進歩の効果が大きい場合、部分提携を禁止した方が、公共財総量や世界厚生を高める可能性がある。

という、部分提携のやや逆説的な結果を得ています。

ご存知の通りパリ協定においては、米国の前トランプ政権はいち早く離脱を宣言し(バイデン政権は復帰することを選択しましたが)、協定のアウトサイダーとなりました。結果の 1. は、アウトサイダーとなった米国が、他国(EUや日本など)の協定提携を促すために、あえて良い技術を採択しないという戦略的な行動を取る可能性を示唆しています。

また、結果の2,3 については、例えばパリ協定の文脈においては、大国が、他国による提携形成を動機づけるために、より低い技術を採用するという戦略的なインセンティブによって低いNDCsを発表し、結果的に地球環境やグローバルな厚生を低下させる可能性があることを示唆しており、またそのような場合には、パリ協定のようなボトムアップアプローチを目論む部分連携の存在自体がその他の国々の技術進歩の芽を摘んでしまう可能性があることを示唆しています。

ペーパーのダウンロードは こちら から。コメントなど頂けましたらありがたいです。

追記

こちらの論文は、2024年に Economic Modelling に掲載されました