誇大広告をどのように規制すれば良いのか?

2012/12/13 1分で読める

拙稿 Hattori, K., Higashida, K., (2012) “Misleading Advertising in Duopoly” Canadian Journal of Economics 45, 1154-1187. の簡単な解説

研究の背景

企業は様々な手段で,消費者に対して自社の製品を買わせるような宣伝活動を行っています。その中には,嘘・大げさ・まぎらわしいような広告や宣伝が

まぎれています。「絶対にやせる」と消費者に誤認させるようなダイエット食品やフィットネスマシン,科学的には立証されていない健康効果を謳う空気清浄機やサプリメント,簡単な方法で英語を習得できるようになると謳う教材など,枚挙にいとまがありません。

このような誇大広告に対して,政府は何らかの規制措置を取るべきでしょうか?直感的には、もちろん取るべきでしょう。市場が競争的な場合には,そのような誇大広告は消費者に(本来)不必要な財を購入させ,消費者の利益を損なうからです。しかし,ある商品の市場が寡占的状況であり、社会的に財の供給が絞られてしまっているような場合にも,それは成立するでしょうか?また,そのような場合には,どのような規制手段が好ましいでしょうか?

何をやったの?

この研究では,2つの企業が差別化された財を供給することで競争しているような複占的状況において,企業が消費者の見せかけの支払い意思額を高めるような誇大広告を行うようなモデルを用いて,企業の誇大広告競争と,それに対する様々な規制の厚生効果を分析しました。

何がわかったの?

結果として,寡占企業間の誇大広告競争により,誤った情報が過剰に流布され,消費者および社会全体の厚生に悪影響があることを示しました。次に,企業間の広告の外部性の程度(1社の広告がもう1社の財をどれほど魅力的にするか)と,広告(情報)発信費用の大きさが,様々な公的規制の厚生効果を決定することを明らかにしました。

具体的には,「誇大広告の完全禁止」「消費者への情報発信・啓発」「財への課税」などは,それらの大きさに依存して,社会にとって良い場合もあれば悪い場合もあることを示しました。企業の誇大広告競争は,規制なしでは社会悪となるが,しかし完全に誇大広告を禁止する政策も,消費者に対して正しい情報を発信するような政策も,ある条件の下では,社会厚生を改善しないということです。理由は,複占的状況においては,財の過小供給という市場の失敗が存在するけれども,誇大広告は『消費者の事後的な損失』と引き換えに,財の消費量を増やすことで『過小供給による歪みを改善する効果』も同時に持っているからです。また,通常は寡占的企業の製品に対する課税は,財の過小供給問題による非効率性をより大きくしてしまうので望ましくないのですが,誇大広告競争を考慮すると,条件によっては社会にとって望ましい場合があることを示しました。一方で,「共同広告の禁止」や適切にデザインされた「広告税」は,社会厚生を必ず改善することを示しました。

さらに,興味深い拡張として,消費者に「騙される消費者」「騙されない消費者」の2種類が混在しているような状況や,企業間に限界費用格差があるケースや,広告が消費者の真の支払い意思額にも影響を及ぼすような状況において,様々な規制の効果がどのように変化するかを明らかにしました。

投稿日: 2012/12/13 9:39:18